東京高等裁判所 昭和30年(ラ)189号 決定 1956年3月06日
事実
抗告人(赤木康夫)の本件抗告理由は、和議申立人債務者西村金融株式会社に対する和議事件につき東京地方裁判所が言い渡した和議認可決定に対し、本件和議の決議は和議条件履行の能否に関する整理委員及び管財人の意見によるところであるが、債務者会社の従来の経過と代表者の経歴に徴して、和議条件の履行は到底不能であるのに可能である如く欺いて決議されたものであるから、本件和議の決議は不正の方法によるものであり、和議債権者の一般の利益に反すること極めて顕著であるから和議法第五十一条第三号第四号に該当するというべく、従つて同法第五十一条第一項により和議不認可の決定を求めるというにある。
理由
債務者会社は大正八年以来その代表取締役社長たる西村小一郎個人によつて営まれて来た庶民金融業を会社組織の経営とするため、昭和二十七年右西村小一郎外十一名によつて設立された会社であつて、その経営の主軸をなす西村小三郎は庶民金融の本旨に徹し、資金を金融以外の部門に使用したこともなく、専ら中小企業者に貸付け庶民金融機関として終始し、むしろ貸金業自体においては或る程度の成果を収めたほどの独特の才能と、類例のない経験を有する者であつたが、債務者会社は株主相互金融なる企業方式を採つたため、獲得した資金の高利支払により経営困難に陥り、且つ本件会社と類似会社である保全経済会、鈴や金融等の相次ぐ破綻の影響を受け資金難に陥つた上、昭和二十九年六月頃結成された労働組合の闘争開始により、遂に内部崩壊するに至つたこと。従つて債務者会社が再起するためには先ず第一に相当額の資金調達が可能であるか否かにかかつていたのであるが、債務者会社の新規な営業資金として右会社の協力団体の有志から既に二億円の出資があつた外、昭和三十年四月営業再開後復旧債権に対する毎月の回収金も順調に進み、又若し本件和議決定が確定すれば訴外山本治裕より更に一億円の出資を受ける契約が成立していること。営業再開後昭和三十一年一月末日まで十ヵ月間における貸付業の実績は純利益一億二千四百万円以上を挙げ、営業成績は既ね予期するとおり順調に運営せられていること。従つて和議管財人の報告書中事業計画の内容として予想せられた計数に近い業績を昭和三十一年一月末において挙げ得たこと、また将来も予想せられた業績を予期し得ることを足り、抗告人主張のごとき和議法第五十一条第三号第四号に該当する事実を認むるに足る何等の証拠もないから、本件抗告は理由がないとしてこれを棄却した。